「研究開発部門が押さえておくべき技術マーケティングの新潮流」を寄稿

技術情報協会 「月刊 研究開発リーダー」2019年10月号 

<特集> 『技術マーケティングと潜在ニーズ、新事業テーマの発掘』において「研究開発部門が押させておくべき技術マーケティングの新潮流」を寄稿しました。

【概要】

社会が複雑化し先が不確実な現代において,製造業は高品質・高性能・高機能を追求するだけでは生き残れない。

世の中の変化を察知し,新たな視点で価値の創造やビジネスモデルにチャレンジすることで飛躍できる時代なのである。

本章では,研究開発部門が市場起点でビジネスをとらえマーケティングを業務に組込むことで,

事業価値を高め,市場競争力を向上させるためのポイントを,近年のマーケティングの潮流を紹介しつつ述べてみたい。

(1)技術マーケティングの実践のポイント

技術マーケティングの役割は技術を活かした売れるしくみをつくることである。
研究開発部門は、顧客価値創造の任を担う。
そもそも顧客が求める価値は、抽象的な話ではなく価値の具現化が必要である。
研究開発部門が、マーケティングマインドを持ち、研究・技術開発とマーケティングを一体的に取組むことで、魅力的な製品の創造を実現することができる。
技術マーケティングの実践に当たっては以下のポイントが重要となる。

1)製品アイディアの発想
アイディアの創造には、閉塞感や危機感をバネとして現状を打破しようとする意欲や、常に好奇心を持ち、常識にとらわれず、先入観をとりはらい、従来と異なった見方をすることが必要だ。
また、アイディアは、組織の力で醸成される。
研究開発部門のメンバーの発想や、これまでの知見や経験を活かせるよう、活発にコミュニケーションがとれる場をつくるなど、組織の風土やしくみづくりが大切である。

2)製品コンセプトの創出
コンセプト(concept)は、顧客が満足するモノやコトの枠組みを定め、顧客に響く商品の魅力ポイントをことばやデザインで表せなくてはならない。
コンセプトを創出するには、顧客とのコミュニケーションを通じて顧客を理解し、顧客に共感する姿勢が大切である。
各メンバーが共有の場を持ち顧客視点で、時には使用者になったつもりで、意見をぶつけ、叡智を出し合い言語化するのである。

3)製品コンセプトの市場検証
開発ステージに応じて、コンセプトに対して市場検証を行うことが大切である。
開発初期は、バラックモデルで市場検証し、その後、プロトタイプが完成したら、改めて詳しく市場検証を行うとよい。
顧客は、実際にものを見ることで、これまで言葉にできなかったことを表現できることが多くある。市場に飛び込み労力を費やすことが、後々、事業として花開くのである。

(2)技術マーケティングの新潮流

マーケティングは社会の変化とともに進化し続けている。変化が早く不確実性の高い現代において、技術マーケティングも例外ではない。これからの技術マーケティングの実践に際して重要な点は以下の項目である。

1)アイディア発想へのデザイン思考の活用
デザイナー的アプローチを通じて新たな発想を生み、問題解決につなげようとするデザイン思考がビジネスで取り入れられている。
デザイン思考は、感性や直感など右脳をフルに働かせようとするものである。
左脳を鍛え論理的思考に長けた技術者が、新たに右脳も鍛えればまさに鬼に金棒である。
自ら、顧客の現場に飛び込み、顧客は何をしているか、どうやってそれをしているか、なぜそのような方法でするのか、と現場の顧客を観察し、感情移入するほど、顧客を深く理解しようと努める、そしてそこから想像を巡らすことで想定外のアイディアの発見につながる。

2)製造業のサービス化とソリューションニーズへの積極対応
製造業は機能的価値に着目しがちだったが、
近年は、製造業の成長の鍵はビジネスにサービスを組込むことが重要との認識が高まりつつある。
サービスは、製品の売上のための手段と位置づけられ無償で提供することが一般的だった。
今後は「量産で儲ける」という発想から「量産がなくても儲かる」へ発想を転換し、有償でサービスを提供することを考えなければならない。
製造現場のコンサルティングやメンテナンスなど、サービスをビジネス化している事例は増えている。新たなビジネスモデルとしてサブスクリプションが普及するなどサービスビジネス開発の土壌ができてきている。
今後は新たなサービスの開発を行うことが大切である。
ものづくりのサービス化の展開として「ものづくりPoC」が普及すると筆者は考えている。
PoC(proof of concept)は日本語では「概念実証」や「コンセプト実証」と訳されIT業界で普及しつつある。PoCは知恵や経験、技術がないと実現しない付加価値の高いサービスである。
「ものづくりPoC」は、製造業の企画・研究開発・プロトタイプ製作など製品開発の前工程の新サービスである。
「ものづくりPoC」の実現には、ものづくり企業の技術に加えて、ユーザーに対する深い理解と本質課題の設定、合理的な検証を行うPoC実践の場が不可欠であるが、自前主義にとらわれず連携体を組成するなど手立てが必要である。

3)市場に向き合い、変化に対応できる研究開発組織の構築
価値創造のスタート時点では、価値を具現化する技術も市場情報も充分ではない。
従来は、自社・顧客・競合の視点で調査・分析し市場開発を精緻に行い、社内で合意をとりつけプロジェクトを次のステージに進めるケースが多かった。
しかし、現代のように変化が急で激しく先が読めない状況では、S. サラスバシが提示している、成功した起業家の研究から導き出された考え方、行動原理「エフェクチュエーション(Effectuation)」を取り入れ、市場と向き合うほうが、ものごとを早く先に進めるには効果的である。
すなわち、自分たちが持っている資源や能力を活かすことで価値創造活動をスタートさせる。
そして、初期の段階から市場に出向き、肌で感じ取った市場の反応を開発に活かしスピード感を持って進める。また、途中で想定外の事が生じた時は、悲観せずに新たな展開方法を検討するなど、ダイナミックにプロジェクトを進める(もしくは思い切って断念する)力が重要だ。
また、開発の方向性の決定など重要な意志決定は、前例や組織の力学に従うのではなく、
プロジェクトのプロセスに関わる各部門のメンバーが同じ場で意見を出し合い、メンバーの感性や情熱、そして、専門家としての多様な解釈を踏まえて下すことが大切なのである。

 

以上のように、時代とともに自社の技術マーケティングも変化し拡張していかなければならない。
組織の変革は一人では難しい、その実現には技術者が集団となり、知恵と汗を出し合うこと。
また、技術者は、現場に出向き、ユーザーとのコミュニケーションを通じて
共に価値を創造し高めていくことが必要なのである。

 

研究開発リーダー10月号の内容に関しましては技術情報協会HPを参照ください。

 

 

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